―ニチモウグループのビジネスモデルの強みや「稼ぐ力」について財務面からどのように評価していますか。
■ 小島
ニチモウのビジネスは一見すると商社ですが、そのルーツは漁網・漁具の製造です。この「作る」ことへのこだわり、いわばメーカーとしてのDNAこそが、私たちの根源的な強みです。例えば食品事業では、単に海外から水産物を買い付けるのではなく、現地に技術者を派遣しています。日本の市場が求める品質や規格を実現するため、現地で直接指導を行い、製品を作り上げるプロセスに関与しています。これは商社機能に留まらないメーカー的アプローチです。
成長著しい機械事業においても本質は同じです。数多くの中小専門メーカーが製造する食品加工機械を、お客様の工場でいかに組み合わせれば最適な生産ラインを構築できるか。私たちはそのエンジニアリングを担っています。一つひとつの機械に関する深い知識が欠かせず、単に「右から左」へモノを動かすだけでは成し得ない仕事です。それぞれの事業が、現場に深く根差し、泥臭くモノづくりに精通していること。その歴史とノウハウの蓄積が、ニチモウ独自の付加価値の源泉です。
■ 上田
財務の視点から見ると、個々の営業担当者が持つ裁量と、その商売のスケールの大きさが特徴です。食品事業では1ロットで300万ドル規模の買い付けを行うこともありますし、機械事業では1ラインで10億円を超える案件も出てきています。一人ひとりが大きなビジネスを動かしているわけですが、もちろん、それを可能にしているのは、会社として長年培ってきたノウハウや情報という「土壌」があってこそだと認識しています。
―2025年度の業績概況と、中期経営計画「Breaking Through Toward 2028」初年度の成果と課題について聞かせください。
■ 小島
2025年度は、国内市場の厳しさに直面した1年でした。デフレからインフレへとマクロ環境が変化する中で、特に下期は価格改定が消費者に浸透しきれず、販売数量が伸び悩む場面が見られました。秋鮭やホタテといった主要な水産資源の不漁も、事業環境としては逆風でした。
現行の中期経営計画は、バックキャストの思考で策定したものです。各事業を「成長領域」「収益性向上領域」などに再定義し、初年度はまさに動き出した段階です。新たな試みも多く、車に例えれば、まだギアが「ロー」に入ったばかりの状態。この1年で得た手応えを糧に着実にシフトアップし、成長を加速させていく。それが今、私たちに課せられた重要な命題であると捉えています。
■ 上田
財務面における大きな成果は、資金調達の安定化と多様化に向けた確実な一歩を踏み出せたことです。近年の安定した業績を背景に財務体質が強化され、食品事業における新たな挑戦を資金面で下支えできる素地が整ってきました。また、これまで着手できていなかった外部格付けの取得に向けて、具体的な準備を開始しています。日本の金利環境が変化するなか、これまで長期の固定金利による調達を主体としてきましたが、今後はコマーシャルペーパー(CP)の発行なども視野に入れ、短期調達コストの最適化も図っていきます。調達手法の選択肢を広げることが、グループ全体の財務基盤の安定に直結し、ひいては経営の自由度を高めることに繋がると確信しています。
―PBR1倍割れの解消に向けて、ROIC(投下資本利益率)の導入など、資本効率を意識した経営をどのように浸透させていきますか。
■ 上田
各事業セグメントのROICを算出したところ、事業ごとの特性が明確に浮き彫りとなりました。多額の在庫を保有してビジネスを展開する食品事業と、人的資本が価値の源泉となる機械事業とでは、投下資本の構造が根本的に異なります。当然ながら、算出されるROICの値も大きく異なります。今後は、この数値を事業特性に即した形で各部門が活用し、資本効率の向上に繋げていくかが、経営上の重要な鍵になります。
■ 小島
事業別ROICの導入は、ようやくスタートラインに立ったところです。有利子負債や純資産を各事業へいかに配賦するかという社内的な合意形成を経て、いよいよ各事業部門への本格的な落とし込みがはじまります。定性的な判断に依存しがちだった意思決定に、ROICという定量的な指標を共通言語として組み込むことで、より客観的な議論が可能になります。
将来的には、ROICを分解した在庫回転率などのKPIを個々の従業員の評価体系にも紐付けることで、一人ひとりが資本コストを強く意識する文化を醸成したいと考えています。M&Aや事業撤退の判断においても、ROICを重要な羅針盤と位置付け、規律ある事業ポートフォリオの変革を着実に実行していきます。
■ 上田
これまでは損益計算書(P/L)上の利益は誰もが注目していましたが、貸借対照表(B/S)に対する意識は十分ではありませんでした。ROICの導入は、まさに投下資本、つまりB/Sを意識した経営への転換を促すものです。株主のみなさまからお預かりした資本や金融機関からの借入といったコストを意識しながら、いかに効率的に利益を生み出していくか。その意識を全社で共有し、浸透させていくことが不可欠だと考えています。
―成長投資と株主還元のバランス、そして未来に向けた財務部門の役割について考えを聞かせください。
■ 小島
株主還元の充実は、経営における重要課題の一つです。中期経営計画で掲げた「配当性向35%以上」という目標に対して、着実にコミットしていきます。一方で、企業が持続的に成長するためには、機動的な成長投資が不可欠です。その原資となるフリー・キャッシュ・フローの創出は目下の課題です。着実に利益を上げ、キャッシュを稼ぎ、それを成長投資と株主還元へ最適に配分していく。この価値創造のサイクルを確立・定着させることが、持続的な企業価値向上の大前提だと考えています。
■ 上田
キャッシュ・フローという概念を、ROICと共に社内へ深く浸透させていく必要があります。各事業部門が創出したキャッシュが、グループ全体の成長投資や株主還元にいかに繋がっているのか。それを誰もが直感的に理解できる仕組みを構築したいと考えています。
その基盤づくりとして、2028年4月の稼働を目指し、グループ全体の基幹システムの刷新を進めています。業務フローの標準化と効率化を徹底することで、現場の各担当者が迅速かつ正確に経営数値を把握し、日々の意思決定に活かせる環境を整備していきます。
■ 小島
パーパスに掲げた「挑戦」とは、決して無謀なものであってはなりません。綿密な計画とエビデンスに裏打ちされた挑戦を、管理部門として支え、時には律していくことが我々の使命です。ニチモウは個の力が極めて強い会社ですが、これからは個の力を結集し、組織としていかに戦うかが問われます。そのための規律や仕組みを盤石なものとし、グループ一丸となって未来に向けた新たな価値創造を実現していきます。

第140期中期経営計画では、“コアビジネス強化と収益構造の安定化の両立”を基本方針に掲げ、持続的な利益成長に向けた事業ポートフォリオ改革を進めています。こうした方針のもと、当社では新たにROIC(投下資本利益率)を重要な経営指標として位置付けました。ROICは、事業に投じた資本に対してどれだけ効率的に利益を創出できているかを示す指標であり、投資した資金を適切に回収できているかを測るとともに、今後の投資判断における重要な意思決定要素として活用していきます。連結ベースの事業別管理を通じて、資本効率を意識した業績管理と事業の集中・選択を推進し、バランスある収益構造の構築を目指していきます。

ニチモウグループ全体で見ると、投下資本は売上高に連動する傾向にあります。そのため、ROICを向上させるには、資本回転率の改善に加え、収益性向上、すなわち営業利益率の改善が重要であると認識しています。特に最大規模の食品セグメントで顕著で、事業構造として売上高/投下資本(回転率)が大きく改善しにくいため、ROIC改善の主因は営業利益率となります。具体的には高付加価値商品の開発と拡販、不採算商材の整理、生産性の改善などによって利益率を上げることがROIC改善に直結すると考えています。
海洋事業は、他の事業に比べて固定資産の占める割合が多く、これらを使っていかに効率よく営業利益を創出できるかが資金効率向上のポイントになると考えています。機械事業では大型の食品製造機械を扱う場合には、一般的に代金を契約時・納入時・検収時と数段階に分けて入金していただくなどリスクヘッジに努めており、資金効率の良い事業構造になっています。資材事業は商社機能が強いこともあり安定的な収益かつ、食品事業や海洋事業よりも高い資金効率となっています。
また、主要4事業のROICは事業別WACC(資本コスト/ハードルレート)を上回っており、各事業が、投下した資金に対して、求められる最低限以上の利益を稼いでいることを確認しました。今後も主要事業のポートフォリオ全体として、資本効率を意識した経営に努めていきます。
今後の取り組みとしては定期的なモニタリングとあわせて、チーム別でのROIC算定単位の細分化を検討しています。
CCC(キャッシュ・コンバージョン・サイクル)は、仕入から販売・回収までに資金がどの程度滞留しているかを示す指標であり、運転資本効率を測る重要な経営指標です。当社のCCCは88.7日となっていますが、売上債権回収サイトと仕入債務支払サイトは概ね均衡しています。一方で食品事業における特性として、水産物の漁獲時期が春先から秋口にかけて集中するため買い付けが先行し棚卸資産が増加、CCCを押し上げる大きな要因となっています。CCCは投下資本回転率とも密接に関係しており、CCCが長期化すると運転資本が増加し、投下資本回転率の低下に繋がります。そのため、ROIC向上に向けては、収益性改善に加え、適正在庫水準の見直しや在庫回転率改善を通じた資本効率向上にも引き続き取り組んでいきます。
