トップメッセージ

Message from the President

サステナブルな海洋資源を届けるために、これからも成長を続ける ニチモウ株式会社代表取締役会長 松本 和明

2024年3月期の事業環境と成果

増収は確保したものの、
連結子会社の事業再構築・整理などで大幅減益

2024年3月期の事業環境は、ニチモウグループにとって厳しいものとなりました。
コロナ禍の終息で社会・経済活動がようやく回復軌道に乗りはじめたものの、世界各所で地政学的リスクの顕在化が見られ、長期化の様相を呈しています。当社グループの事業基盤である水産、水産加工・流通、食品の各領域では、外食・観光産業などで回復が見られたものの、原材料価格やエネルギー価格の高騰などを受けて、厳しい状況に直面しました。
主力の食品事業では、カニは通販・業務用向けの販売が好調に推移し業績に貢献したものの、すり身の市況悪化から流通在庫の滞留が発生し、評価損の計上を余儀なくされ、助子も量販向け製品において原料価格の高騰や製造コストの上昇などにより、食品全体では前期比で減収減益となりました。
資材事業も同様に、原材料価格の高騰分の販売価格への転嫁が進まず苦戦を強いられましたが、海洋事業は、日本近海で獲れるイカ、サケ、サンマなどの大衆魚は不漁だったものの、イワシだけは豊漁で、そこで使われる資材販売が順調に推移し、機械事業は国内外の省人省力化の各種生産設備の需要が高く受注が進みました。
しかしながら、業績は連結子会社の事業再構築・整理の一環として損失計上したことにより、増収は確保したものの、大幅な減益となりました。

サステナブル経営推進の新規事業三本柱は、
企業価値向上に向け引き続き推進していく

事業を通じたサステナブル社会の実現に向けた三本柱の進捗について、まずはじめが水産物加工の安定供給体制の実現に向けた取り組みです。ニチモウグループは北海道の紋別に2工場を保有しています。
1つは北海道沿岸で揚がるスケソウダラをすり身に加工し、副産物で発生する残滓を使ってミールを生産する工場です。もう1つは、オホーツク産カニ・ホタテの加工工場です。この2工場については2段階の設備投資を計画し、第1段階として計画していたすり身の自動化ラインとフィッシュミールの自動化ラインは設置が終わり、稼働を開始しました。第2段階は冷凍設備の更新を検討しています。
次に、サーモンの陸上養殖については、第1フェーズの300トンの生産体制を確立し、2023年10月に初出荷を迎えました。現在は、誰が食べても「おいしい」と思うレベルまで魚の品質を底上げするために、水温や餌、飼育方法の改良などに取り組んでいます。第2フェーズでは3,000トンの生産計画を立てていますが、当初計画より移行が遅れています。第1フェーズの販売状況を見ながら第2フェーズの計画を進めてまいります。
最後に、バイオマス漁網の販売については、ようやくフィールド試験がはじまったところです。お客様からの反応は悪くありませんが、従来の漁網と同じ機能を保つところまでは達しておらず、課題が残っています。
いずれも成果が出るのに時間を要していますが、企業価値向上に資する取り組みですので引き続き推し進めてまいります。

中期経営計画の仕上げ、
事業ポートフォリオ転換への思い

国内市場の需要に応える事業に加え、海外市場を積極的に開拓し、
事業ポートフォリオを変革して業績の安定化を図っていく

2023年3月期を初年度とする「第137期中期経営計画(Toward the next stage)」(以下、現中計)が2年目を終え、私自身が感じていることは、事業ポートフォリオ転換の必要性です。現在のニチモウグループの事業は、食品事業に代表されるような、どちらかといえば国内需要に対応する事業が多くなっています。
国内市場で販売するために、世界各地から水産物を調達したり国内で魚を生産したりといった事業がメインとなっています。しかし、近年では事業環境が大きく変化しており、内需中心のビジネスだけでは十分とは言えません。これからは、もっと外需向けの事業の割合を増やすべきだと考えています。これにより事業ポートフォリオが大きく変わることになりますが、今後はそれを進めていく必要があると考えています。
輸出の拡大が期待できる事業は、海洋事業と機械事業です。具体的には、海洋事業で扱っている漁業資材の輸出と、食品製造機械の海外への輸出の2つです。
漁業資材は、海外市場の規模はそれほど大きくなく、価格競争も激しい市場ですが、食品製造機械は、すでに海外輸出の実績もあり、最近の円安を受けて海外市場では割安感があります。一方、人手不足は国内のみならず世界的な課題であるため、今後も製造現場の機械化は進んでいくものと見ています。まずは、食品製造機械の輸出を増やすことで事業ポートフォリオの変革を進め、利益を拡大させつつ、事業の安定化を図っていく考えです。

サステナブル経営と養殖事業の推進

水産資源のサステナビリティに配慮し、養殖事業を拡大させ、
海面養殖だけでなく、陸上養殖の可能性も追求する

ニチモウグループは、水産物の漁獲から加工・販売に至る流通過程のサービスをトータルに提供する企業であり、豊かな海洋資源を守ることは重要な責務であるとの認識のもと、サステナブル経営に取り組んでいます。養殖への取り組みは、天然の海洋資源を毀損しないという意味で、ニチモウグループが取り組むサステナブル経営に通じるものがあります。これからの水産業は、水産資源のサステナビリティに配慮し、天然の水産物を保護しつつ養殖の魚を市場に供給することで、豊かな食生活を維持していく形に変わっていくことになるでしょう。
サーモンの陸上養殖事業については、様々な業界の企業の参入が相次ぎ、競争が非常に激しくなっています。ノルウェーやシンガポールなどの外資系企業も増えています。日本市場では、日本国内で養殖したサーモンが求められていることは間違いなく、今後の需要拡大も見込まれます。
海面養殖と陸上養殖には一長一短があります。陸上養殖との比較では、現状は海面養殖の生産量が圧倒的に多く、採算性も高まっています。しかしながら、海面養殖は新たな問題に直面しています。最大の問題は海水温です。特に夏場は海水温がこれまでは考えられなかったレベルまで上がることが増えてきて、養殖魚が死んだり、養殖期間が短縮されたりする現象が起きています。こうした地球環境の変化も踏まえ、ニチモウグループとしては、海面養殖と陸上養殖の双方に取り組んでいく必要があります。

海の豊かな資源の保全、環境に配慮した生産と流通をサポートする責務を果たすことで、企業価値向上を目指します

陸上養殖については、異業種との連携に大きなメリットを感じています。異業種の方々が持つ事業資産を活用することができるからです。例えば九州電力(株)との連携では、火力発電所の遊休地を使わせていただいています。海沿いの広い土地を利用させていただいているため、利水権の面で、大きなメリットがあります。更に、こうした好立地でなければ、陸上養殖は成り立ちません。一方で、異業種の方々から見て、漁業に対するニチモウグループの知見は魅力的であるはずです。当社グループと組むことで、新分野にチャレンジできるからです。洋上風力については、漁業者とお互いにメリットの出るような関係づくりをしないと事業が前に進まないということもあり、地元の漁業振興や水産事業の新たな創出のため、ニチモウグループには大きな期待を寄せていると感じます。今後はこうした連携を活かし、時代に合った形に事業を進化させていくことができると考えています。
こうした連携は、ニチモウの社内を活性化させることにも繋がります。ニチモウでは社内で「組織の連携による新しいことへの挑戦」を推進しており、サーモンの陸上養殖や海面養殖で新たな展開が具体的に進みだしています。こうした分野に、若手を中心に人材を配置して新たな事業を創出していくことが、組織と人材の活性化に繋がると考えています。

更なる企業価値の向上に向けて

企業価値の更なる向上に向けて、次期中期経営計画をまとめ、
東証プライム市場の維持基準を常にクリアできる盤石な体制を整備する

ニチモウは東証プライム上場企業として、企業価値の継続的な向上のための取り組みを進めています。
現時点(2024年3月時点)の株価を見る限り、資本市場からの評価は良好であり、今後の更なる企業価値の向上を見据えて、2025年4月よりスタートさせる次期中期経営計画の策定委員会を立ち上げ、作業を進めています。まずは、上場維持基準のチェックを受ける2025年3月末時点で、上場維持基準のすべてをクリアするために万全の準備を進めていく考えですが、次期中期経営計画期間の3ヵ年の大方針にも、プライム市場の条件を常にクリアできる盤石な体制の整備を掲げます。
まずは、適正な利益を確保することで、株主・投資家のみなさまにニチモウグループの稼ぐ力を認めていただくこと、その上で、ニチモウグループの今後の事業活動をしっかり理解してもらうためIR活動にも注力していく考えです。
当社では以前から、持ち合い株式を含め、長期保有を志向される安定株主が大半を占めていました。今後は資本政策も大きく方向転換を図っていく考えです。
具体的には、これまで続けてきた株式の持ち合い解消を進め、流通株式を増やすことで、一般投資家や海外投資家を増やしていく方針へと変更します。IR活動もこれまで以上に積極化します。サステナビリティレポートも含めて会社の中身や経営の考え方をどんどん発信していくことが、経営の重視する姿勢です。
こうした姿勢を持ちはじめたことで、最近は株主・投資家にみなさまから、様々な形で建設的な意見をいただけるようにもなりました。こうした意見に耳を傾けることで、ニチモウグループを進化させていこうとする姿勢も芽生えてきました。海外の株主も徐々に増えはじめており、英文のIR資料も充実させてきたことで、海外投資家の方々からも関心を寄せていただけるようになっています。また、ガバナンス体制の改善として女性社外取締役を登用し、様々な視点から意見をいただく考えです。

水産物は、世界の人たちにとって非常に魅力的な食材です。水産物を中心とした食事を楽しむことに大きな価値があることに、世界が気付きはじめています。
日本は四方を海で囲まれていることから、当たり前のように、旬の魚をいつでもおいしく食べることができますが、今後はこれが当たり前ではなくなる時代が訪れるかもしれません。おいしい水産物を世界の食卓に届け続けるために、ニチモウグループにはできることがたくさんあります。サステナブルな海洋資源を届けるために成長を続けるこれからのニチモウグループに、ぜひご注目ください。