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Message from the President

足元の事業環境と
2023年3月期の成果

水産物の値上がりが収益に影を落としたものの4事業の展開により、
市況や外部環境の変化に強い事業構造を構築

ニチモウグループを取り巻く足元の事業環境は、不透明感が増しています。ウクライナ危機に伴うエネルギー価格の高騰や海上・陸上を含む物流コストの上昇が収益に少なからず影響をもたらしています。加えて、水産業では不漁が続き、食材が適正に確保しにくい状況が続いています。ニチモウグループの売り上げの約6割を占める食品事業においては、とりわけ水産物の値上がりが収益に影を落としました。国内の消費者物価を見ても、当社の事業に深く関わる水産物の価格上昇は畜産物や野菜類と比べても非常に大きく、この一年での大幅な値上がりはこれまで経験したことのないレベルに達しています。これを受けて消費者の行動においても生活防衛のための買い控えが見られはじめています。当社も販売価格への転嫁を決断し、対応は進めたものの、足元の収益状況にはマイナスに作用しました。
一方で、売上の約4割を占める海洋事業、機械事業、資材事業の収益は、食品事業とは状況が異なります。
海洋事業については、依然として北海道沿岸での漁獲不振やコロナ禍による沿岸漁業への影響はあったものの、漁網・漁具資材部門では一時的に落ち込んでいた海外まき網の需要回復が見られるなど順調に推移したほか、船舶・機械部門においても船舶用機器類の販売、船用品の販売が堅調でした。養殖部門は魚価が堅調なこと、製品価格の大幅な値上げを控えたことなどから需要が増加しました。また機械事業では、前期に比べると高収益の大型案件が減少しているものの、コロナ禍による人手不足の影響などもあって機械化ニーズの拡大が続き、需要自体は旺盛でしたが、原材料の値上がりによる収益の圧迫、さらには半導体不足の影響による納期の遅れなどもあり、収益に影を落としました。資材事業については、化成品部門では包装資材の価格高騰の影響を受けたものの、主力の建材用シートの販売は順調に推移し、農畜資材でもコフナ®・肥料の販売が堅調に推移しましたが価格転嫁に時間を要し利益は停滞しました。
このように、食品・機械事業の収益については厳しい状況に置かれたものの、海洋事業が堅調に推移したことでそれをカバーすることができており、4つの事業からなる事業ポートフォリオを有することで、市況や外部環境の変化に強い事業構造が構築されつつあることを、あらためて実感することができました。

ニチモウにとってのリスクと機会

気候変動の影響もあり、漁船漁業は中長期的なリスク要因。
一方で養殖漁業については、海面養殖、陸上養殖ともに事業機会が拡がる

足元の水産業界では事業機会が拡がっています。漁船漁業と養殖漁業を合わせた世界の漁業生産量は年々増加しており、その需要は今後も減ることはないと見ています。とりわけ中国、韓国、東南アジアといったアジアの水産物需要は極めて旺盛で、今後はアフターコロナでインバウンド需要が回復すれば、高品質な日本の料理を通じて水産物の魅力に触れたアジアの人々が、自国に帰って水産物の需要増を引き起こすような機会が増えるかもしれません。栄養価の高い水産物は、近年高まる健康志向にも合致しており、その人気も高まりつつあります。
漁船漁業の生産高についてはほぼ横ばいで、持続可能な水産資源の調達という視点からも、中長期的には漁船漁業の生産量を増やし続けることは難しくなるだろうと見ています。日本は独自に資源管理を強化することで漁船漁業の漁獲量を増やす努力をしていますが、例えば地球温暖化の影響によりサンマの回遊が沖合に移動し、従来の漁船漁業の手法での漁獲が困難になるなど、海の変化が漁船漁業の漁獲量に影響を及ぼすような事態が生じているのです。その一方で期待が高まっているのが養殖漁業です。養殖漁業は海面養殖と陸上養殖に分類できますが、ともに需要の拡大が見込まれており、養殖事業に注力しているニチモウグループにとっては、事業機会があると考えています。
需要が拡大する海面養殖が直面する大きな課題として、漁業権の問題があります。海面養殖の拡大には、既存の漁業者との間で漁業権を調整することを避けて通ることができないのです。そのため、既存の漁船漁業者が海面養殖を手掛けていくことになると見ています。幸いニチモウグループには、海洋事業を通じて培ってきた、漁船漁業を営むお客様との深いつながりと信頼関係があります。今後はこうした事業者の方々との連携により、海面養殖の事業拡大につなげたいと考えています。
一方陸上養殖は、日本ではこれまであまり大規模には展開してこなかった分野です。陸上養殖で採算を合わせるには、ある程度の事業規模が必要です。そのためには臨海の広い土地を確保する必要があります。こうした背景から、既に臨海の広い土地を保有する電力会社や石油会社が陸上養殖に参入するケースが多く見られます。それ以外にも、陸上養殖を少ない人数で管理・運営するシステムを開発してエレクトロニクス関連企業が参入するケースもあり、異業種の参入によって市場の効率化が進み、事業化がしやすくなっていく可能性が高まっています。

ニチモウには長年の養殖事業で培ってきたノウハウがあるので、こうした事業者の方々に我々のサービスを提供することで、陸上養殖の拡大に貢献したいと考えています。
養殖の拡大は、世界の水産業にとっての重要なキーワードです。水産物の需要が拡大するなかで、われわれの食卓に並ぶ水産物も次第に養殖によるものに変わっていくことでしょう。
今後、養殖の水産物が多くの食卓に並ぶようにするには、鮮魚だけでなく加工を施した水産物を流通させることが必要となります。養殖と加工がセットになって発展することが重要なポイントなのです。ニチモウグループは今後、養殖の生産を拡大しながら、得意分野である水産物の加工も同時に進めていきます。これにより養殖の水産物を食卓に浸透させることができると考えています。

中期経営計画の進捗、
サステナブル経営の強化

経営方針の具現化に向けた中期経営計画の施策は着実に進捗。
引き続き、世界の水産資源の確保に向けてサステナブル経営を進めていく

ニチモウグループは現在、「浜から食卓までを網羅し繋ぐ」という経営方針の具現化に向けて、3ヵ年経営計画「第137期中期経営計画(Toward the next stage)」に取り組み、サステナブル経営に注力しています。以下、計画に掲げる6つの重点課題への取り組み状況についてご説明します。

1. 養殖事業の拡大

既にご説明させていただいた通り、海面養殖では既存の漁船漁業者の養殖事業への進出を支援し、陸上養殖では異業種の参入者に対する養殖ノウハウの提供を通じて、今後も養殖市場の拡大とニチモウグループのプレゼンスの向上に努めます。

2. 食品事業の収益の安定

これまでは世界の市場から水産物を買い付けて日本の食卓に提供することを中心に展開してきましたが、アジアの旺盛な水産物需要や円安の進行などにより、市場での「買い負け」が深刻化しています。
そのため、養殖事業の拡大や漁船漁業からの調達を増やし、食品事業の収益安定化を進めます。

3. 機械事業のさらなる
収益力強化に向けた布石

国内では人手不足による機械化需要を引き続き捉えていきます。日本が得意とする食品製造機械の生産をフルに活用して海外での事業に振り向けていくことが今後ますます重要になるなかで、海外での事業展開を加速させます。ここも非常に期待できる事業であると感じています。

4. グループ経営の強化

コーポレートガバナンスの強化やCSR活動の強化を進めています。特にガバナンスについては、グループ会社での経営の質を向上させるべく、これまで以上にグループガバナンスの強化に力を注ぎます。

5. サステナブル経営の推進

水産物という天然資源を扱っている以上、世界の水産資源を守ることはニチモウの使命であり、待ったなしで進めます。SDGsへの貢献にもつながることであり、当社のサステナブル経営の根幹と捉えています。今後も海の豊かな資源の保全、環境に配慮した生産と流通をサポートする責務を果たすことで、「持続可能な社会への航路を拓く」をキーワードに、中長期的な企業価値の向上に努めます。

6. 市場成長率の高い事業への投資

世界的な水産物需要が高まるなかで、水産物に対する生産や流通に関する事業に商機があると認識しています。国内にとどまらず、グローバルな視点から、高い市場成長率が見込まれるこれらの分野に対して積極的な投資を行います。

挑戦する社風こそがニチモウの原動力

失敗を恐れず、成功に奢らず、常に新たな事業に挑戦していくことで
会社そのものが強くなり、経営も強くなる

ニチモウグループは100年を超える歴史を持つ企業です。私たちがこれまで持続的な成長を実現できた背景には、何事に対しても「あきらめずに粘り強く続ける企業風土」があったからに他なりません。
一番よい例は養殖事業です。ニチモウグループが初めて養殖を手掛けたのは約40年前で、私たちはこの間、事業活動を通じて養殖の技術やノウハウを蓄積してきましたが、その努力がようやく実を結ぶ時期が訪れています。有機肥料を製造するコフナ事業もそうです。30年以上の地道な積み重ねと試行錯誤がようやく実を結び、黒字化を達成しました。こうした背景には、間違いなく社員の頑張りがあります。成功と失敗の体験を積み上げてきた努力が報われることで、新たな仕事に対するやりがいや明日への活力につながります。
裏を返せば、新たに着手した事業について、すぐにあきらめてしまうような体験ばかりを積み重ねても、それは決して価値を生み出さないということです。
社員も失敗ばかりを重ねていれば、そのうち仕事にも身が入らなくなって、やりがいも感じなくなり、他の会社に移りたくもなるでしょう。その点、ニチモウグループには、とにかくあきらめずに粘り強く続け、成功しても失敗しても、そのすべてを受け入れるような懐の深さがあると考えています。私は、新たな事業への挑戦と、そこでの成功と失敗が会社や経営を強くするものだと信じています。失敗を恐れず、成功に奢らず、常に新たな事業に挑戦していくことで会社そのものが強くなり、経営も強くなるというのが私の信条です。会社や経営が強くなれば、社員もたくましくなり、新しい事業の失敗と成功の中でさまざまなノウハウ、事業はどうすればうまくいくのか、どうやるべきなのかということも学ぶことができます。社員も経営陣も、そうした経験を積み重ねることで、経営の目指す方向が定まり、業績にもつながっていくものと思います。未来を担う若い世代の社員にも、失敗を恐れず、むしろ失敗から多くのことを学び、挑戦する姿勢を忘れずに持ち続けてほしいと思います。
持続的な成長とサステナブル経営に向けたニチモウグループの挑戦に、引き続きご期待ください。