特集1
特集1
現在、水産業を取り巻く環境にはさまざまな問題点があります。国内の漁業・水産業では漁業就労者数が減少傾向にあり、人手不足が深刻化しています。また、世界中の海ではプラスチック由来の海洋ゴミの流出や海水温の上昇などが生態系に大きな影響を及ぼしていると言われています。
当社はそのような課題に対し、次世代により良い漁業・海洋環境を引き継ぐべく、漁業の省人省力化と漁獲した水産物の付加価値を高めるシステムのほか、環境に配慮した海洋資材の開発と供給に取り組んでいます。
Improving Working Conditions and Increasing Added Value
魚介類鎮静化システムにより鎮静状態のギンザケ
漁業は労働環境が厳しいだけでなく、就労者の高齢化に伴い人手不足が深刻化しています。そのような課題に対しニチモウグループでは、漁業者の労働環境改善に貢献するとともに、水産物の付加価値を高める持続可能な漁業の仕組みづくりを目指しています。
魚介類鎮静化システムにより鎮静状態のギンザケ
左:青い点線がSPACECOOLで覆った貯氷艙 右:サーモグラフィによる温度計測
当社グループが開発した魚介類鎮静化システムは、水産物に微弱な電流を流すことで一時的に魚を鎮静状態にし、サイズの選別や活締め作業の時間を短縮することができます。更に、活締め作業時に魚が鎮静状態となるため、打ち身による品質低下を防ぐことができます。“高品質”という付加価値を付けて販売できることで高い収益性を期待できることから全国の漁業者の間で注目を集め導入が広がっています。
また、近年の気候変動による猛暑の影響で漁船の貯氷艙(漁獲後に魚を冷やすための氷を保管している空間)が高温になることで氷が融ける速度が上がり、氷を計画通り使用することが困難な状況になりつつあることが、漁業者の懸念材料の一つとなっています。この課題を解決するために当社は、宇宙に熱を逃し冷却できる放射冷却素材「SPACECOOL」を漁業で初めて導入しました。本素材を導入し、貯氷艙の蓋を覆うと、従来の保冷シートで覆ったときと比較し貯氷艙内が約3℃低下することを確認しました。本素材の活用は、経済的かつ計画的な氷の使用に繋がり漁業の効率化に貢献しています。更に以前と比較し、水産物の鮮度を維持しつつ漁港で水揚げできるようになり、高付加価値の創出に貢献しています。
また、100年以上にわたり漁具メーカーとして蓄積した高い技術とノウハウを活かし、洋上風力発電を活用した地域振興などに漁業共生ソリューションを提供しています。今後とも当社グループは、今以上に漁業を成長・安定させ継続的な収益を実現できるよう貢献していきます。
Development of Environmentally Friendly Fishing Gear
漁網に絡まるウミガメ
現在、プラスチック由来のゴミ問題が世界中の海で深刻化しており、中でも不法投棄や荒天により流出した漁網や漁具等に海洋生物が絡まり死亡してしまう「ゴーストフィッシング」などの被害が甚大です。また、プラスチックゴミが障害物となり船舶の航行を妨げるといった経済的な損失ももたらします。
漁網に絡まるウミガメ
バイオ・生分解性漁具
そのような課題を改善するために当社グループでは、自然環境下で生分解性を有するバイオマス素材を用いた環境に優しい海洋資材の開発に努めています。同素材を用いた漁具資材であれば、海底に沈んだ後、加水分解の過程を経てバクテリアによる微生物分解が促進されることで海洋プラスチックゴミ問題を軽減します。
現在では、バイオ・生分解性素材を用いたネットやロープなどの資材は陸上用への展開も進めており、豊かな海を作り出す山林に向けた導入にも努めています。
バイオ・生分解性の海洋資材を用いて生育したコンブ
海水温の上昇を引き起こす地球温暖化の要因とされる温室効果ガス、特にCO2の排出量削減は、世界規模で求められています。当社は2050年までにカーボンニュートラルを実現するという目標を掲げ、CO2排出量の削減に向けて、多方面から積極的に取り組んでいます。
その施策の一環として、モズクやコンブなどの海藻類を養殖することによる大気中のCO2の吸収、海中固定によるブルーカーボン創出に取り組んでいます。バイオ・生分解性のロープやネットに海藻の胞子を付着させ海中に設置することで一般的な石油由来の同資材と比較し、初期成長速度が4~5倍ほど高いという実験結果を受けています。
現在では、岩手県釜石市のコンブ養殖にもバイオ・生分解性のロープや土のう袋が使われており、大量発生したウニによる藻場の磯焼け対策にも貢献しています。
更に、石油由来のネットなどと比較して原料調達・生産と廃棄を合わせたCO2排出量を約40%削減できると試算しています。当社グループは、ブルーカーボンの創出を推進するだけでなく、地球温暖化の主要な原因であるCO2削減にも取り組み、持続可能な海洋環境の実現に努めていきます。