特集1

海洋環境の保全に向けて

Special Feature 01

当社グループは漁業・水産業を基盤とした事業で継続的な価値創造を行うと同時に、
次世代により良い自然・海洋環境を引き継ぐべく、自然環境下で生分解性を有したバイオマス素材(以下、バイオ・生分解性素材)を用いた
海洋資材の開発をはじめ、環境に配慮した海洋資材の研究開発に引き続き取り組んでいます。

漂流した海ゴミとカメ

課題 1増え続ける海洋プラスチックゴミ

プラスチック由来の海洋ゴミ問題が世界中の海で深刻化しており、中でも不法投棄や、荒天により流出した漁網や漁具等に海洋生物が絡まり死亡してしまう「ゴーストフィッシング」などの被害が甚大です。また、海洋航海の障害物となり船舶の航行を妨げるといった経済的な損失ももたらします。

課題 2海水温の上昇抑制と脱炭素社会の
実現に向けたCO2排出量の削減

地球温暖化・海水温上昇の一因といわれている温室効果ガス、とりわけCO2の排出は世界規模で削減が求められています。また、当社グループは2050年までにカーボンニュートラルを実現すべく、CO2排出量の低減に向けて、様々な面から取り組んでいます。

01 The Marine Plastic Pollution Issue

ニチモウグループの取り組み 1海洋プラスチックゴミ問題への取り組み

バイオ・生分解性素材を用いた海洋資材

海洋プラスチックゴミ問題の課題解決に向け、当社グループはバイオ・生分解性素材を用いた海洋資材(漁網・ロープ・イカ針・タコ壺など)の開発・販売に取り組んでいます。

バイオ・生分解性素材を用いた海洋資材

本資材であれば、利用中(海中)の性能低下は極めて少なく、仮に損傷あるいは荒天によって海に流出した際には比重が1以上であることから、海底に沈んだ後、加水分解の過程を経てバクテリアによる微生物分解が促進されます。なお、海水中において素材は沿岸域であれば5~15年、深海域では25~75年で加水分解されると推測されています。
また、近年問題視されているマイクロプラスチック問題を緩和し、海洋環境への負担を軽減できるほか、生分解の効果からゴーストフィッシングによる生態系への影響を最小限に抑えることができます。
昨年から導入が進んでいるバイオ・生分解性素材を用いたタコ壺では、一般的な石油由来のものと比較して高い漁獲力(約1.75倍)が見られるなど副次的な効果も確認されています。現在では海外からの引き合いもあり拡販に努めています。

生分解性刺網

世界初となる生分解性刺網の開発

また、2023年10月に当社グループ会社の北海道ニチモウ(株)と数社共同で世界初となる生分解性樹脂であるPBAT(石油由来の生分解性素材)を主原料とした「生分解性刺網」を開発しました。実漁獲試験をスケソウダラ漁にて実施し、生分解性刺網の漁獲効率は従来の石油由来のナイロン製の刺網と遜色なく、ニシン類に対してはより高効率であることが確認されています。また、本製品は刺網で捕らえた漁獲物を外しやすい特性も持ち合わせており省人省力化も期待できます。現在、他魚種を漁獲対象とした生分解性刺網の開発も進めており製品化に取り組んでいます。また、刺網の販売は海外への輸出が大部分を占めており、本製品の海外展開を推し進めることで諸外国でも問題となっている海洋ゴミ問題の解決にも貢献していきます。

人工浮き漁礁(FADs)

FADs(人工浮き漁礁)にも
生分解性資材を活用

他にもバイオ・生分解性素材を用いた人工浮き漁礁(FADs)の資材を全面的に提供しています。FADsは、回遊魚であるマグロやカツオが浮いた漁礁に集まる習性を利用して漁獲する漁法に使用しています。
未回収となった石油由来のFADsが数多く漂流しており、絡まりによる希少なサメ類やウミガメ類のゴーストフィッシングを引き起こし大きな問題となっています。当社グループが開発したバイオ・生分解性素材を用いたFADsは海岸への漂着や沈下時に早く分解されるだけでなく、海洋生物が絡まないデザインにしていることでゴーストフィッシングによる影響を軽減しています。インド洋マグロ委員会では、バイオ・生分解性素材を用いたFADsの利用が2027年に完全義務化など国際的な漁場における人工浮き漁礁に対する石油由来の漁具資材の代替が加速しています。今後も当社グループはバイオ・生分解性素材を用いた漁具資材の開発を進め環境負荷低減に努めてまいります。

02 Creating Blue Carbon

ニチモウグループの取り組み 2ブルーカーボンの
創出に向け
実証実験を開始

脱炭素社会を実現するため社会活動で排出されるCO2の削減が喫緊の課題となっています。その施策の一つとして近年、海洋生物の作用によって大気中のCO2を海中に吸収し蓄積するブルーカーボンが注目されています。当社グループが開発したバイオマス漁網・ロープなどの生分解性素材を用いた海洋資材は海藻のアカモクの初期成長が通常の石油由来の網と比較したところ4~5倍優れていることが明らかになっています。更に本素材を用いた海洋資材は、一般的な石油由来の漁網漁具と比較しCO2排出量を製造と廃棄(燃焼)を合わせて約60%減少させることが可能です。

宗像市では、宗像漁業協同組合や福岡県と共同し当社グループが開発したバイオ・生分解性由来の網を提供しブルーカーボンの創出に貢献しています。更に、アカモクの藻場喪失の要因となっているウニの食害による磯焼け対策の改善にも寄与しています。また、沖縄県石垣島ではモズクに対しても養殖試験を行っており石油由来の網と比較したところ種付きが良く初期成長が早いことが確認されました。この優位性により、荒天時や流れの速い場所でも安定した養殖が期待できます。
引き続きブルーカーボンの創出に向けた事業に取り組み、脱炭素社会への実現に努めてまいります。

アカモク種苗の取り付けの様子

1か月後のモズク成長比較

3か月後のモズクの様子