トップメッセージ

Message from the President

パーパスに掲げた「挑戦」を、確かな実績へ 代表取締役社長 社長執行役員 青木 信也

中計初年度に見えた「変化の兆し」と、
乗り越えるべき「スピードの壁」

変革の加速を急務とし、危機感を糧に更なる改革を推進します。

中期経営計画「Breaking Through Toward 2028」が始動して1年が経過しました。社長就任から2年を振り返り、確かな手応えと危機感が入り混じった、身の引き締まる想いを抱いています。
業績面では、2026年3月期は連結売上高1,397億円と過去最高売上高を更新し着実な事業拡大を進めることができました。一方で営業利益は27億円となり、不確実な国際情勢、原料調達の不安定化、急激な為替変動などの影響を受け、収益面では課題を残す結果となりました。
こうした環境下においても、各事業が成長基盤を維持・拡大できたことは、全従業員の粘り強い努力の成果であり、経営トップとして高く評価をしています。しかし、私の本音を申し上げれば、社内に巻き起こすべき「変革のスピード」については、まだ想定の6割程度に留まっており、決して満足はしていません。
当社グループが掲げる「Breaking Through」は、単なるスローガンではありません。それは、100年を超える歴史の中で積み上げてきた成功体験や、無意識のうちに組織に染み付いた「待ちの姿勢」を根底から打破するための不退転の決意です。現在の水産業界は、これまでの常識が通用しないパラダイムシフトの真っ只中にあります。気候変動による魚種の交代、海水温の上昇、地政学リスクに伴う物流・エネルギーコストの高騰といった外部環境の激変は、私たちに「現状維持は退化である」と突きつけています。
変化の兆しは確かに社内に芽生えつつあります。「このままではいけない」という良い意味での危機感が醸成されつつあり、2027年3月期はその危機感を行動へと転換し、具体的な成果に結びつけるスピードを更に一段、二段と上げていく覚悟です。

タウンミーティングで再確認した「現場の力」

対話を通じて現場の声を経営へ。安定感に「瞬発力」を加え、組織を塗り替えます。

この1年、私が心血を注いだ活動の一つが、全国の拠点を回るタウンミーティングです。これまでに全国各地で従業員との直接対話を重ねてきましたが、2026年度も半年をかけて全拠点を巡る計画を立てています。
初めてタウンミーティングに臨む際、私は「社長としての考えを伝える」こと以上に、「現場の皆さんが何を考え、どんな悩みを抱えているか肌で感じたい」というスタンスを貫きました。各事業部やグループ会社に対する所感をあえて率直に話し、「私の認識はこれで正しいか」と問いかけたのです。すると、従業員からは「社長、それは違います」「現場の実態はこうです」という声が次々と上がってきました。ミーティング後には、個別に面会の申し入れがあり、私の認識不足を鋭く補うような提言を受ける場面もありました。
こうした対話を通じて、従業員との心理的距離が確実に縮まったと確信しています。私はこれからも「徹底して語り合える社長」でありたい。社長室のドアは物理的にも心理的にもいつでも開いています。会社を変えるのは社長の号令ではなく、現場で挑戦を続ける従業員一人ひとりの情熱です。
タウンミーティングを通じて再認識したのは、ニチモウの従業員が持つ「揺るぎない安定感」です。自然を相手にする水産業に身を置いているからこそ、一喜一憂せず、どっしりと構えて仕事に取り組む強靭さがあります。一方で、その安定感が「スピード感の不足」に繋がっている側面も否定できません。この「どっしりとした強さ」を活かしながら、いかに「時代の変化に対する瞬発力」を兼ね備えさせるか。それこそが、中計2年目以降のマネジメントにおける課題だと定義しています。

主要4事業の現在地と、
次世代を見据えた変革シナリオ

成長事業の柱への変革と基盤強化を両立。過去の延長にない、真の変革を遂行します。

中計の基本方針は「コアビジネス強化と収益構造の安定化の両立」です。この方針に基づき、各事業セグメントではこれまでの「延長線上」ではない非連続な変革を推進しています。

食品事業

原料商売から「川中・川下」へのシフト
売上の過半を占める食品事業は、長らく原料の買い付けと卸売が中心でした。しかし、水産資源が不安定化するなか、薄利多売のモデルでは持続的な成長は望めません。そこで私たちは、加工度を徹底的に高め、より消費者に近い「川中・川下」へと事業領域を広げる戦略を加速させています。例えば、ノルウェー産のサバを単なる原料とし て販売するのではなく、独自の加工技術で付加価値を高め、国内市場へ展開する成功モデルが確立されつつあります。今後はニシンなど他の魚種にもこのモデルを広げ、ブランディングを意識した商品開発を強化します。また、国内の人口減少を先読みし、日本で培った高品質な加工技術を、成長著しいアジアや北米市場へと繋げていく「先手」の海外展開も強化していきます。

海洋事業

養殖・環境資材を次代の「圧倒的な成長の柱」へ
祖業である漁網などを扱う海洋事業は、現在、最もダイナミックなパラダイムシフトに直面しています。「獲る漁業」から「育てる漁業(養殖)」、そして海を守る「環境資材」へのシフトを二軸とし、エンジニアリング機能を持つ商社としての真価を発揮します。 特に陸上養殖は、水温上昇や海洋汚染などの外部環境に左右されない、持続可能なタンパク源供給の決定打です。グループ会社「フィッシュファームみらい」での知見を凝縮し、設備の設計から生産までをトータルにサポートするビジネスモデルを構築します。また、生分解性資材についても、マイクロプラスチック問題への具体的解決策として社会実装を急ぎ、水産業界のスタンダードを創出することを目指します。

機械事業・資材事業

人手不足と環境ニーズを最大の好機に
機械事業は、深刻な人手不足を背景とした自動化・省人化ニーズを追い風に好調な推移を維持しています。今後は単なる機器販売に留まらず、製造ライン全体のエンジニアリング能力を研ぎ澄ませ、M&Aも視野に商材ラインナップを拡充します。 資材事業においては、食品包装分野のみならず、モビリティや建材分野での化成品需要、特に石油系からバイオ系への素材転換ニーズを的確に捉え、次なる収益源へと育てていきます。
特に投資家のみなさまの関心が高い食品事業については、先ほど触れた「高付加価値化・川下展開」という方針を更に強力に推進します。買い付けの現場には精通している一方で、販売最前線への踏み込みに未だ余地があることは、大きな伸び代であるとポジティブに認識しています。ここに経営資源を重点投入し、ブランド力を高めた商品開発と販路開拓を加速させていきます。

10年後の営業利益77億円へ。
カギはボトムアップの「成長投資」

バックキャスティングで利益倍増に挑む。資本効率を磨き、未来への航路を拓きます。

今回の中計では、未来から逆算する「バックキャスト」の考え方を初めて本格的に導入しました。10年後の2035年に「ありたい姿」を描き、そこから逆算して「今、何を成すべきか」を導き出す。これは、過去の延長線上で計画を立てる従来の手法とは一線を画す、大きな挑戦です。
従業員一人ひとりの心の中には、「10年後はこうありたい」という想いが必ず眠っています。それを中計という形で初めて明文化し、数値目標として社会に公言しました。2035年3月期の営業利益77億円は、決して容易な数字ではありません。しかし、これを公表したからには、目標の達成、更にはその先を見据えて「何を創造すべきか」を真剣に考え抜かなければなりません。
現在の営業利益27億円台から3倍弱に引き上げるこの目標は、既存事業の延長線上では決して到達できません。不可欠なのは、将来の収益源を創出するための「成長投資」です。中計の3年間で、設備投資とM&A枠を合わせて120億円という、これまでにない規模の投資枠を設定しました。
ここで肝要なのは、経営陣が一方的に投資先を指示することではありません。現場から「このビジネスを開花さ せたい」というアイデアが次々と湧き上がってくるような、ボトムアップの文化を醸成することです。M&Aは「時間を買う」ための有効な手段でもあります。自社のリソースのみに固執せず、外部の知見や技術を積極的に取り込み、オープンイノベーションを促進する。そうした「自前主義からの脱却」と「外部活力の導入」という二刀流の発想を、全従業員に求めています。
もちろん、投資にはリスクが伴います。だからこそ、私たちは進捗管理の羅針盤として「事業別ROIC(投下資本利益率)」を導入しました。売上や利益の絶対額のみならず、投じた資本に対してどれだけの成果を創出したかという「資本効率」の視点を、事業の最前線にまで浸透させていきます。これが、不確実な時代において、確実な一歩を踏み出すための強力な武器になると確信しています。

PBR1倍割れは「結果」。
我々は成長投資という「本質」を貫く

PBR1倍割れを真摯に受け止め、資本効率を磨き、確かな企業価値向上を遂げます。

市場からの厳しい評価、特に「PBR1倍割れ」が続いている現実については、真摯に受け止めています。これは投資家のみなさまから「利益は出ているが、将来の成長性や効率性に未だ疑問がある」と警鐘を鳴らされているのだと理解しています。
この膠着状態を打破するには、成長投資を断行して企業価値の源泉を太くし、市場の期待(株価)を力強く押し上げること、この一点に尽きます。私たちは「PBR1倍」という通過点に甘んじることなく、その根幹にある「持続的な価値創造」という本質を徹底して追求していきます。具体的には、資金を漫然と内部留保するのではなく、ROICを意識した成長投資へと積極的に振り向けます。同時に配当性向35%以上、10年後には40%以上への引き上げを目指す積極的な還元姿勢を貫き、ROEについても10%以上を安定的・継続的に上回る水準を目指します。
株主還元については、中計で掲げた方針に何ら変更はありません。業績状況等により機動的な判断を要する場合もありますが、株主のみなさまへの還元を重視する姿勢は揺るぎません。昨年の株主総会では、長年にわたり当社を支えてくださっている個人株主の方から、「日本の水産業のために、ニチモウには大いに期待している」という温かい激励をいただきました。その期待に背を向けることなく、信頼され続ける会社でありたいと心から願っています。

社員一人ひとりが「自分事」として変化を楽しむ。
それがニチモウの未来を創る

サステナブル経営を事業の核へ。変化を「自分事」として楽しむ風土を築き、真の変革を成し遂げます。

サステナブル経営は、私たちの事業そのものです。水産資源を守らなければ、当社の存在基盤は失われます。一方で、海洋環境に配慮した資材の開発は、新たな巨大市場の創出に直結します。この「環境と社会の好循環」を具体的な成果として示していくことこそが、「Breaking Through」の証明になると確信しています。
具体的な成果は既に結実し始めています。例えば、沖縄のモズク養殖では、当社が開発した生分解性の資材を使ったところ、生育が促進され、極めて質の高いモズクの収穫に成功しました。これは既に「沖縄太もずく」として商品化されています。また、同素材を用いたタコツボにおいても、従来のプラスチック製を凌駕する漁獲成果が得られるという結果が出ています。未だ科学的なメカニズムの完全解明には至っていませんが、こうした成功事例を一つひとつ積み重ね、社会に広めていくことが重要です。
「Breaking Through」を単なる打ち上げ花火に終わらせないために、私自身も各事業部の会議にオブザーバーとして積極的に参画しています。報告書というフィルターを通さない現場の悩みや課題感に、直接触れるためです。従業員の意識改革を促すために、社長として成すべきことは何か。その正解はどの教科書にも載っていません。自らの足で現場を歩き、泥臭く私自身の「変革の教科書」を作り上げていく決意です。

ステークホルダーに向けて

今回、私たちは「挑戦」という言葉をパーパスに掲げました。挑戦とは、一度きりのイベントではありません。挑み、進捗を確かめ、課題を見つけ出し、更に高い壁に挑戦する。このサイクルを実直に繰り返し、「挑み続けることを文化にする」ことにこそ真意があるのです。
その根底にあるのは「変化しなければ生き残れない」という強烈なまでの危機感です。現状に満足していては、真のブレイクスルーは起こせません。変革の過程では、乗り越えるべき幾多の困難も待ち受けているでしょう。しかし、それを厭(いと)わず突き進んだ先にしか、私たちニチモウの、そして水産業界の未来はありません。
私が従業員に願うのは、変化を「自分事」として捉え、自ら楽しんでほしいということです。指示を待つ姿勢を捨て、「こうありたい」「こう変えたい」という想いを、ダイレクトに経営にぶつけてほしい。その挑戦の過程で生じる「生みの苦しみ」を乗り越えた先に、真に明るい展望が開けると信じています。
「浜から食卓までを網羅し、挑戦の歩みを未来へ」。これ は100年以上の歴史の中で、幾多の荒波を乗り越えてきた私たちのDNAそのものです。ステークホルダーのみなさまには「今までのニチモウとは違う」という確かな実感を、行動と数字によって証明していきます。不確実な大海原を切り拓き、持続可能な未来へと突き進む私たちの航路に、ぜひ力強いご支援と、大きなご期待を寄せていただければ幸いです。
ニチモウグループは、これからも「挑戦の歩み」を止めることなく、未だ見ぬ新たな価値を創造し続けます。